主要著書

The End of Economic Man
『「経済人」の終わり―全体主義はなぜ生まれたか』(1939年)

The End of Economic Man

第一次大戦後、民主主義が根づいていなかった国では、ブルジョア資本主義とマルクス社会主義に絶望した大衆が、ファシズム全体主義にはしった。経済のために生まれ、経済のために生き、死に、経済のために戦争をし、あるいは逆に和平を求めるという経済至上主義の破綻を明らかにした本書は、70年以上を経た今日のわれわれにも問題意識を投げかける。

本書は出版後直ちに後の大英帝国宰相ウィンストン・チャーチルの激賞を得た。

ドラッカー29歳のときの処女作であって、ナチズムの日常と本質を描いて息をつかせない。ヒトラーが政権を握った1933年に書き始め、ドイツ軍がポーランドへ侵攻した1939年に刊行された著作である。全体主義の起源を分析した世界で最初の本だった。

The Future of Industrial Man
『産業人の未来―改革の原理としての保守主義』(1942年)

The Future of Industrial Man

社会が機能するには、一人ひとりの人間に位置付けと役割があって、かつそこに存在する権力に正統性がなければならない。しかも、よりよい社会への改革の道は、現実に立脚した保守主義の原理によらざるをえない。

ソクラテスからフランス啓蒙思想、ルソー、ロベスピエール、マルクス社会主義革命、ヒトラーとつづく理性万能主義、全体主義の系譜の破綻を明らかにするとともに、イギリスとアメリカの保守主義の実績をこれに対比させた。

社会にかかわる一般理論を確立し、その産業社会への適用を特殊理論として展開したドラッカー社会学の原点である。第二次世界大戦にアメリカが参戦する前に、「戦後世界に何を期待し、そのために今何をなすべきか」を明らかにした著作。

本書を読んだGMのトップマネジメントが同社の調査と研究を依頼したことから、やがてマネジメントがドラッカーによって発明されたのだった。

The Practice of Management
『現代の経営』(1954年)

The Practice of Management

企業の機能はマーケティングとイノベーションである。本書こそ、経営の本質を明示することによって、世界中の企業と経済に直接の影響を与えた経営の原典である。

前著『企業とは何か』発表の後、ドラッカーは、産業社会の主たる機関としての企業とその経営の成否が、社会の行方を左右するとの認識のもとに、マネジメントを深化・集大成し、本書によってマネジメントの父とあおがれるようになったのだった。

本書によって元気づけられ、導かれたという経営者、知識労働者は数知れない。「企業の社会的責任」もすでに論じられている。

The Age of Discontinuity
『断絶の時代―いま起こっていることの本質』(1969年)

The Age of Discontinuity

地震の群発のように、激動が先進社会を襲いはじめた。その原因は、地殻変動としての断絶にあった。

この断絶がもたらしたものをグローバル化の時代、多元化の時代、知識の時代、起業家の時代ととらえた本書は、世界中で読まれ世紀のベストセラーとなった。今日まさにその渦中にある大転換期への突入の様相と、その本質を明らかにした。

イギリス保守党がドラッカーによるものとして政策綱領に入れ、政権をとったマーガレット・サッチャーが推進して、やがて世界中に広がった政府現業部門民営化の構想は、本書で発表された。現代社会最高の哲人としての名声を不動にした名著である。

Management: Tasks, Responsibilities, Practices
『マネジメント―課題、責任、実践』(1974年)

Management: Tasks, Responsibilities, Practices

われわれの社会は、組織社会として極度に多元化した社会になった。財とサービスの提供、医療、福祉、教育、知識の探求から環境の保全まで、主な社会的課題のほとんどすべてが、専門の社会的機関にゆだねられた。それらの課題をいかに果たすかが、それぞれの機関のマネジメントの課題である。

原著800頁を超える本書は、今日でも大学、ビジネススクール、経営セミナーの教科書として使われている。

伝記作家ジョン・タラント呼ぶところの「マネジメントを発明した男」の筆によるマネジメントの集大成であり、実務家と研究者にとっての百科事典的な教科書である。

Managing in the Next Society
『ネクスト・ソサエティ―歴史が見たことのない未来がはじまる』(2002年)

Managing in the Next Society

ネクスト・ソサエティとは、いかなる社会か? 次の社会がいかに経済と経営を変えるかを示した本書は、2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件以前に取材・執筆されたインタビューと論文集である。若年人口の減少、労働力人口の多様化、製造業の地位の変化など、日本のために書かれたというほどに説得力がある。『2006年度版 厚生労働白書』は本書を参考としている。